悪趣味な作品はOK、けれども趣味の悪い作品はNO!
千野帽子さんの肩書きは「日曜文筆家」だ。平日は某所で仕事に就いているが、土日のみ物書きに早変わりして、本についてのエッセイを書く。2004年に雑誌『ユリイカ』でデビューして以来、幾冊かのブックガイドをリリースしてきた。紹介する書物は幅広く、純文学もあれば幻想文学もあり、SFもあればミステリもありといった具合。「純文学専門」「ミステリ専門」「SF専門」といった専門性に囚われないセレクトと、洒脱な語り口が人気を呼んだ。
「ただし感覚的な立場はあります。一言で言えば、悪趣味なものはOKだが、趣味の悪いものは苦手です。たとえばジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画は、悪趣味の典型です。けれどもそこにはあふれるほどの映画への愛が感じられるし、大好きですね。でも『セックス・アンド・ザ・シティ』は趣味が悪くて生理的に受け付つけない。ほかの例で言うなら、電撃ネットワークの南部虎弾さんの髪型は悪趣味だから好きですが、片山さつきさんの髪型の、あの趣味の悪さには耐えられない(笑)。あの髪型は1980年代の負の遺産ですね」
確かに『セックス・アンド・ザ・シティ』にちょいちょい出てくるバブリーな「趣味の悪さ」には、辟易させられることがある。片山さつきさんの髪型も、よく見るとバブル時代の名残が冷凍されたかのような髪型で、確かに妙な違和感がある。逆に、あえて世間の顰蹙を買うような、ゾンビ映画や南部虎弾さんの髪型は「悪趣味」ということになるのだろう。それでは文学作品の場合はどうだろうか。
「18世紀に書かれた英国産ゴシック小説なんかは、悪趣味な文学の典型でしょうね。ゴシック小説というのは悪人がいろいろと悪事を働く怪奇小説なんですが、悪い奴がいかにも悪そ〜に出てきますものね。多くの作品でイタリアが舞台になってるのも『イタリアに失礼だろ!』とか思いますし。英国人のイタリアコンプレックス丸出しで、実に悪趣味ではあるんですが、悪趣味すぎて許せちゃう。けれども本屋大賞にノミネートされるような、明朗な『青春ってすばらしい!』的な小説。あの趣味の悪さには耐えられない」
プロフィール
文筆家
千野帽子(ちの・ぼうし)
福岡市生まれ。フランス政府給費留学生として、パリ第4大学(ソルボンヌ大学)に学び、博士課程修了。2004年から休日のみの文筆業として『ユリイカ』などで執筆開始。著書に『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』(河出書房新社、2006)、『文學少女の友』(青土社、2007)、『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ 舶来篇』(河出書房新社、2009)、『読まず嫌い。』(角川書店、2009)。『ミステリマガジン』『日経ビジネスオンライン』などで連載。