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クリエイター・ファイル27:“草木花を通して、生のありように向きあう”朝井まかて

ただ、書きたい。思い続けていたのは、それだけ。

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葉より先に花開き、散り際の潔さは他に比類なし(「実さえ花さえ」終章より)

講談社の第3回小説現代長編新人賞 奨励賞受賞。朝井さんの作家人生は、ここから始まった。コピーライター歴25年にして人生で初めての小説の執筆、文学賞への初めての応募、初めてづくしで一気にデビューに至ったのが昨年の秋。受賞作品は「実さえ花さえ、その葉さえ」これを改題し「実さえ花さえ」が単行本として出版されている。

物語の舞台は江戸 寛政年間。植物の苗木を売る種苗屋の夫婦と、彼らをとりまく人々の話である。主人公の一人である夫は木や草花を栽培し、種から育てたり、挿し芽、挿し木、接ぎ木や品種改良などを行なう花師だ。

「私自身が幼い頃から植物が好きだったのもありますが、仕事で庭木の図鑑をつくったときに植物の歴史や由来を調べると、これが凄く面白かった。たとえば『ムラサキシキブ(紫式部)』って、それまでは誰も目に留めない名もない植物だったのが、江戸時代の植木商がそのネーミングをつけて売り出したものなんです。江戸期の園芸にはそんなエピソードがたくさん埋もれていて、宝の山に見えた(笑)。いつか小説を書けるようになったら、この世界を舞台にしたいと思っていました」

そのひそかなアイデアが形になったのが今回の受賞作品だ。植物を育て、それを愛でる人々の人間ドラマには、植物の名の由来などが巧みにストーリーに織り込まれ、小さなサプライズが散りばめられた読み応えのある作品になっている。体ひとつで修業を積み店を構える、職人の心意気が物語を眩しく爽やかなものにしている。

そして後半は人生の悲喜こもごもが物語を動かす。エンディングまでの、時代小説らしからぬ疾走感が印象的だ。特に、とある木に咲く花の見事なまでの散りぎわと、おそらくは人生でいちばん輝いている時であろう、うら若き女性の儚い運命が、絶妙にオーバーラップするところは、ワンシーンごとが哀しいほどに美しい。その木については朝井さんにも思い入れがあった。

「生態系には役に立たない木なんです。なので環境配慮の専門家からは『あんな木』と評される」美しく咲くことだけに力をそそぐその花木は、ほとんど蜜をつくれない。だから、鳥も近寄らず、花の後には毛虫がたくさんついて人に厭われる。そのうちに、「その木って、なんてせつないんやろう、って思うようになって。せっかく生まれてきたのに。ねぇ」この朝井さんの想いが、作品の後半を淡く染めている。

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プロフィール

作家

朝井まかて(あさい・まかて)

1959年大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒業。コピーライターとして広告制作会社に勤務後、独立。2006年、大阪文学学校に入学し、小説を書き始める。初めて書き上げた小説で応募し、2008年「実さえ花さえ、その葉さえ」で第三回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞、デビューとなった。

作品

※クリックすると大きな画像をご覧いただけます。

  • 作品1
  • 作品2
  • 作品3
  • 作品4
  • 作品5
  • 作品6
  • 作品7
  • 作品8
  • 作品9

クリエイターズ・チョイス

一朝一夕では得られないもの クリエイターズ・チョイス27「家にも庭にも、経てきた年月がある。」