待ってくれている人をぜったい裏切らない。
心斎橋の夜はにぎやかだ。街にあふれた人が道の左右に分かれてせわしく行き来する。人の流れが大きく迂回したら、そこはストリートでさまざまな作品を売るアーティストたちの居るところだ。ポストカードやアクセサリー、Tシャツ、似顔絵、ライブをするグループもいる。そういう一画に、かつて森チャックさんも座っていた。並べていたのはポストカードだ。ピンクと、水色と、黄色のクマ。愛らしいフォルムとは裏腹に、大きなツメはとがって血のりがついている。人間を襲っている絵には血しぶきが飛んで、紙面に赤い色が広がっている。でも、クマの表情はあくまでも無垢で愛らしいのだ。このクマが森チャックさんの代名詞といってもいいだろう、『グル〜ミ〜』である。
ストリート活動の発端は、同じ会社のウェブデザイナーが言い出したことだった。学生時代に描きためていたイラストをポストカードにしてストリートで売るつもりだという。「昼飯のとき言い出して、ぼくも描きためた落書きあるから、それ出すわ、ていう感じで、友達も一緒になって3人で始めたんです」
当時は、求人誌の制作会社でイラストを描く毎日だった。会社はイヤではなかったが、圧倒的にストリートの方が楽しかったという。「目の前で喜んで買ってくれるという環境が新鮮でした。自分の頭の中から出てきたものを認めてもらえるってことは、自分自身を認めてもらえるってことだから」
評判は口コミで広まり、一度おとずれた人が友達を連れてやってくる。客足は回を重ねるごとに増えていった。「その人だかりを見て、かどうか知りませんけど、テレビや雑誌の取材も来てましたね」固定ファンもいて、週に1回のストリート活動で、4回目には人だかりが巨大なものになった。「そうなると、ちんぴらみたいな人がやってくる。面倒臭いからハイハイって片付けて、その人たちがどっか行ったら、また出す。それがだんだん面倒になってきて、その頃ちょうどストリートの取材とか、雑誌の仕事が入ってくるようになってたから、ちんぴらに目つけられてまで続けることないかなって思ってストリートは、やめました」それにしてもトントン拍子ですね、その秘訣は?と問うと「その当時から、ひとりよがりなことはしなかったから」という。「どういう作品が受け入れられるのかっていうアンテナは常に張っていて、日々、毎週毎週、それに沿って描いてました。でも、自分が描きたいものを描くのが一番なので、人が求めてるものと、自分が描きたいもののバランスがちょうどいいものを描くんです」往々にしてクリエイターというのは、チャックさんの言う“バランス”に苦しみ、最終的には自分の限界を嘆きつつ涙を飲むことも多い。そこをさらりと乗り越え大いに楽しんだというチャックさんがちょっと羨ましい。「で、それが売れると、ああ、こういうのはやっぱり受け入れられるんだなって納得してました。
それと、雨が降ろうが何しようが、必ず毎週やるっていうのも決めてました。僕を待ってくれている人を、絶対裏切らないっていうのが信念としてありましたからね。毎週毎週、必ずやるんです」語り口は穏やかな森チャックさんだが、ご自身の中に絶対的なルールや価値観が、厳然として存在しているのが分かる。そして作品を見る人との距離がとても近い。このスタンスは、以来ずっとチャックさんのクリエイティブ活動において、変わることがないのだった。
プロフィール
イラストレーター:森チャック(もり・ちゃっく)
大阪府生まれ。2000年2月から2001年9月まで、大阪心斎橋の路上で自作のポストカードやステッカーを販売するストリート活動を展開。世の中の矛盾をキュートなキャラクターで表現する独自のスタイルが口コミで広がり、反響を集める。現在はポニーキャニオンと契約し、株式会社タイトーのプライズ用キャラクターシリーズ『チャックスGP』や、携帯コンテンツ『テノリチャックス』などを中心に展開し、ニューキャラクターを続々生み出す毎日。その他、イラスト集や絵本、DVD、海外アーティストとのコラボレーション等、幅広く活躍中。東京都渋谷区在住。
公式サイト
http://www.chax.net/